第六章 西カリム

死者の国へ導く魔女に会う

 魔術師達と交信できるという魔女が住むマイカという貧しい漁村を見下ろす高台に、宿場町はあった。山の手に住むのは富裕層の商人達だった。ルージェンは解熱剤が切れると、熱が出る状態で、海を見下ろす宿で休む日が今日で二日目だった。

 夜、カーテンを開け放った窓からは暗い海に浮かぶ漁火が見えた。昨夜から降り続ける雨の中、アザンは今朝魔女の家を訪ねると告げた。小康状態になったルージェンにアザンは嬉しそうに言った。

 「もう少し体力が回復したら、貴方にこの町を案内したいな。寒い冬に備えて漁師達が魚を保存する蔵とか、寒い氷河の風に閉ざされる冬の間、家の中でどうやって家族が遊んで楽しむのか。女達は自分達の着物を縫ったり、革靴を作ったりします。漁師達は仕事が終わると、酒場で飲んだり踊ったり。女達は子供と一緒に互いの家に行き、内職をしながら会話を楽しむのです」

 ルージェンはアザンの顔は見ずに、窓からの雨で灰色になった海と空を見ながら静かに言った。「お前は小さい頃そうやって過ごしたんだな」

 「はい、僕はここからもっと北へ行った所にあるバラチという漁村で7歳まで育ちました」

 ルージェンはアザンから目をそらしたまま言った。

 「魔女の家から帰ったら、城へ帰る支度をしなさい。アザン、またいつか、城で会おう。道案内ご苦労であった。これは命令だ」

 アザンを見ようともしないルージェンとの間にしばらく沈黙が続いたが、「行ってきます」それだけ言ってアザンは宿の部屋を出て行った。ルージェンは、高熱で自制心が取れていたとはいえ、自分の気持ちをアザンに晒してしまったことを恥じていた。彼の顔をまともに見ることも出来ないくらい恥じていたのだ。 

 ドアを閉め、階段を降りて行くアザンの足音を聞きながら、ルージェンは出来るものなら彼を追いかけて行きたかった。

 「お客人」

 この宿で働く女が入って来た。最初この部屋に運ばれて来たルージェンの体を温かい湯で絞った布で拭いて着替えさせてくれた若い女だった。黒い髪で、後姿がアンシアを思い出させる体格だった。

 「シーツを代えるからね。体が冷えないようにして」ベッドから出るルージェンの体に毛布を掛けながら女が言った。「シーツを代えている間、そっちのテーブルでこれでも読んでて下さいまし。さっき届いたんですよ」

 女が差し出した手紙は、アンジリーカの署名があった