授業が終わって一階の食堂へ下りると、すでに席に座って談笑する、パルミ王妃、ルージェン、ルゴス卿、サホン卿、シューリー妃、ライモンが居た。

 「ライモン!」

 アンジリーカが従兄弟のライモンの姿を認めると、走って食堂へ入った。ライモンは素早く立ち上がり、食堂の入り口でアンジリーカを迎えた。

 アンジリーカは自分より胸から上、身長があるライモンに飛びついた。ライモンはアンジリーカを抱きとめると、両腕でしっかり支えたまま、細いアンジリーカの身体を三回転させた。アンジリーカの愛らしい無邪気な行動は、いつも場を明るくする効果があった。

 「ようやく会えたのね、会議はもう終わったの?」

 「終わったよ、おチビさん」

 アンジリーカがふっくらとした下唇をとがらせて言った。

 「おチビさんはやめてよ。アンシアと同じ身長なのに、何で私だけおチビさんなの」

 「少し背が伸びたかな?」

 アンジリーカは得意そうな、嬉しそうな表情をする。

 「体重も前より重くなったね。グラマーになったよ、おチビさん」

 「いやらしい、ライモン」

 ライモンの楽しそうな笑いが食堂に響き渡った。

 

 アザンはルゴス卿一家が城に着いた時は夜も遅く、姿を見なかったが初めて見るルゴス卿は亡きルジン王の肖像画に似て、金色の髪に青い瞳をしていた。妃のシューリーは、黒い髪は縮れて漆黒の肌をしていた。ジェンナ国から嫁いで来たとアンシアが言っていたのを思い出す。ジェンナ国の人はシャリム国から来たサホン卿や、シェインより肌が黒いのだ。サホン卿の肌も浅黒いが、彼の髪は真直ぐだった。

「ライモン、良かったら私の隣に座って。ようやく解けたの、見て」

 アンジリーカが片手に持って来たノートをライモンに差し出した。ライモンはそれを手に取ると、目を走らせた。

 「すごいね。こんな解き方もあったのか。うん、私の数学の家庭教師にも見せてやりたいよ」アンジリーカは嬉しそうに笑っている。

 「ライモン、航海の話を聞かせて。ここに居る皆は、貴方みたいに船であちこち行けるわけではないし、フリムやアザンは船に乗った経験もないから面白いんじゃないかしら」

 アンジリーカは食卓に座った皆の表情を見廻した。

 フリムが端正な笑顔で言った。

 「ライモン、ぜひ、異国の話を聞かせて下さい」

 アンシアも続けて言った。

 「ライモン、最近はどこへ行ったの?」

 ライモンが低くて落ち着きのある声で話し出すと、いつものようにアザンの隣に座ったルージェンが小さな声で話しかけてきた。

 「午後の狩のことだが、お前の馬術ではまだ皆について行けない。私の馬に一緒に乗るように」

 「はい、わかりました。王子」

▲へ