第二章 手紙

この物語の人物や設定の紹介

 

母さん

 

母さんが長年薬草で楽団員達を癒してきたのを、手伝ってきた経験がこんな風に役立つことになりました。

 旅に出られないことは、少し不満でもありますが、楽団よりもはるかに高い給料で、何よりも嬉しいのは、学問が出来ることです。もっとも、王女達やフリムという天才に囲まれての授業は、劣等感で恥ずかしい思いもしますが。

わからないところは、教師やアンシア王女が丁寧に教えてくれます。アンシア王女は僕より4歳年下でまだ15歳なのに、誰にでも気配りが出来る立派な王女です。僕が彼女の隣に座った日から、アンシア王女はよく気を使って下さる優しい方です。黒い髪に海のような瞳の美人です。しかし、彼女には婚約者がいるのです。ミシュナ国のバルモ王子です。バルモ王子は僕と同じ19歳。毎週一回はアンシア王女の元へ手紙が届きます。バルモ王子から手紙がくると、教室にいる皆に読んで聞かせるアンシアを、一つ年下のアンジリーカ王女がからかうのですが、アンシアは幸せそうです。ミシュナ語が分からない僕のために、翻訳して読み上げてくれます。

 妹のアンシア王女は女性らしい曲線的な身体のアンシアとは対照的に、妖精みたいにほっそりとした少女です。彼女はいつも金色の髪を輝かせて動いているような元気な少女です。

 朝の7時から昼の12時まで授業があるのですが、1時限につき15分休みがあります。

アンジリーカはダンスが好きで、休み時間になると、即興で踊っています。僕に三弦を弾かせようとするのですが、アンシアがそうはさせません。休み時間は、授業についていけない僕のために、アンシアが勉強をみてくれます。それで、夕食後からは自由時間になるのですが、アンジリーカが望む時は僕が音楽を奏でて、彼女の踊りの練習につき合わされます。もっとも、夜に王女達と男が共に過ごすことは認められていないので、僕も侍女と同じドレスを着て、かつらまで被らされます。

 おっと、母さんに手紙を書いた目的を忘れて、前置きが長くなってしまいました。

 ルージェン王子が、母さんの薬草の知識を活かして、僕と一緒に僧院で働いて欲しいと言われるのです。僧院の薬師は、シャリム国から来た、シェイン先生だけです。シェイン先生がいなくても、薬草が少し扱えるのは、僕とルージェン王子と、ロリス僧長と、僧院の持ち主であるサホン卿だけです。サホン卿は亡きアザリア王女の夫で、シャリム国の貴族だった方です。シャリム国では、人間の解剖まで許されているそうで、サホン卿は普段、館の方で、シャリム国の医学書の翻訳作業をされています。

 サホン卿の一人娘、サミュン姫も、城で同じ授業を受けています。シャリム国の人を初めて見ましたが、肌が黒いのですね。

サミュン姫は金色の髪と、褐色の肌を持つ美女です。ルージェン王子と同じ17歳らしいのですが、ルージェン王子は夕食後アザリア邸へ出かけてしまいます。朝食も城で召し上がらず、毎晩、アザリア邸で泊まって来ます。授業の休み時間や昼食の席では、御二人が特に親しいそぶりもないのですが。

 あっと、話がそれてしまいましたね。

 母さん、旅回りの生活は疲れるからと楽団から離れて西カリムの街で暮らして二年になるよね。西カリムの海の風は冷たいでしょう。

 城へ、来てくれませんか。王子の話によると、母さんには、金20万ダラッタの給料と僧院の一部屋をあてがうそうです。母さんさえよければ、迎えの馬車を送るそうです。こちらでは、食べ物に不自由することもありません。どうか、良い返事を下さい。待っています。

 

                               アザン

 

 

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