夕食後、珍しくアザンは僧院へ向かった。僧院の玄関を通ると、マージルが一階の炊事場で薬草を煎じていた。
「母さん、いつもこんなに遅くまで働いているのかい」
「いいや、あたしは金銭分の仕事しかしないからね。でも今夜は特別だよ。トルクのことが心配でね。あたしが街へ買出しに行くと、トルクはいつもまけてくれたからね」
「トルクじいさんの様子は?」
「頭を打ったのは大丈夫なようだ。こぶが出来ているだけで。吐き気とかもみられないしね。これが出来たら」
マージルは鍋の中をかき混ぜて言った。
「飲ませるんだ。痛みが和らいで、よく眠れるんだよ」
アザンはトルクの様子を聞いて安堵した。
「で、あんたは何しに来たの」
「僕もトルクじいさんのことが心配で」
「ふーん」
「母さん、厩に王子の馬があるけど、王子はサミュン姫の元にいるのかい?」
「いいや、王子はいつも僧院に寝泊りしているしね。急病人がいる時は当直の尼僧と一緒に面倒をみている。それ以外は三階に居室に籠っているから。何をしているかは知らない。尼僧達も教えてくれないからね」
「尼僧達は母さんと違って口が堅いからね」
「おや、そうかい」
「母さん、その噂好き、直さないと信用が落ちるよ」
「もう、そんなことを言うのなら、お前には一切教えてやらない」
「まあまあ、母さん、もしかして、サミュン姫が王子の部屋へ行くこともあるの」
「ほーら、お前だって、人の噂は興味あるじゃないか。姫はめったに僧院へ顔を出さないよ。今夜サホン卿は城へ出掛けているけど、いつもはサホン卿の手伝いをしているからね。王子に用があるなら、トルクの傍にいるから」