トルクが寝ている病床へ向かうと、暗闇の中、窓からの月明かりでベッドの傍らにルージェンが座っているのが見えた。今夜は尼僧の姿ではなかった。短く刈り揃えた砂色の髪が女のようになめらかな肌を縁どっていた。銀色のマントは柔らく曲線を描いて身を包んでいた。

 「どうしたんだ」

 「トルクじいさんの様子が気になったから来たんです」

 目を開けたトルクが微かに笑って二人に言った。

 「若いの、すまないね」

 ルージェンが応えた。

 「トルク、大丈夫だ。複雑な折れ方はしていないから、安静にしていれば骨は付くだろうとシェインが言っていた」

 トルクの隣に空いているベッドにアザンは座った。ルージェンが立ち上がった。

 「今夜の当直はクレアだ。辛い時は呼び鈴を鳴らすように。私は少し外へ出てくるから」

 ルージェンが去って行った。結局アザンは気兼ねして、何故今夜の王族会議も出席しなかったのか聞けなかった。妹のアンシアを実質上は、人質としてミシュナ国へ渡さなければならない立場は辛いのだろうとアザンは感じた。

 その時煎じ薬を入れた小皿を持ってマージルが来た。

 「トルク、これを飲んで、痛みが楽になるからね」

 マージルはトルクの肩に手を入れて、その上体を支えて飲むのを手伝った。トルクが飲み終わるとアザンにマージルが言った。

 「王子が外へ出て行ったきり、帰ってこないね」

 「厠へ行っているんじゃないのか」

 「アルコールを持ち出して出て行ったよ。今夜は霜が降りるほど冷えるのに困ったもんだ。飲んだくれて風邪をひかなきゃいいが」

 「アルコールだって?」

 呆れたアザンは立ち上がって、僧院の外へ様子を見に行った。

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