母さん

 

僕は気が変になったわけでもないし、今の処だまされているわけでもありません。事実給料は王子の言葉通り、10万ダラッタ戴きました。

 確かに、文字と簡単な計算ぐらいしか出来ない僕が王子や王女と同じ授業を受けるなんて信じられないでしょう。

何のために?王子に聞いたら、僧院の仕事を続けていく上で、必ず役に立つだろううし、王族と一緒に食事をするのも、将来は薬師として、客をもてなす機会もあるだろうからと申されていました。

 しかし、僕だけ特別ではないのです。フリムという16歳の青年は、彼がすでに8歳の頃から王族達と一緒に授業を受けているのです。彼は、幼い頃、農民や商人や職人達の子供が行く街の学校へ通っていたのですが、町人達に開放した城の図書館へ、毎日本を借りに来る少年で、大人の誰よりも多く本を読む子供だったのです。亡きルジン王がフリムのことを知って、王族の子供達が通う城の教室へ来させることにしたのです。

 フリムは今でも、夜になると鍛冶屋をしている両親のもとへ帰って行きます。確かにフリムは特別なのです。

 仕方がないとはいえ、教室で授業を受けている中で、19歳の僕が一番劣等生です。次に年長者なのがルージェン王子とサミュン姫で、同い年の17歳です。ルージェン王子は剣術と弓術では誰にも負けません。サミュン姫は、医学では誰にも負けません。それは、父上のサホン卿がシャリム国の医学書を翻訳するのを毎晩手伝っているからだと彼女自身が言っていました。

 アンシアは男の僕は授業を受けていないのですが、家政学が得意みたいです。彼女は、バルモ王子と結婚したら、二人の食事は自分で作るのだと言っています。

 バルモ王子の両親も兄弟も、毒殺されている方達が多いそうなのです。アンシア王女は、夕食後の夜の時間は侍女達と縫い物をして楽しんでいます。アンシアがデザインするドレスは街の仕立て屋で売られています。裕福な商人の娘達が買っていくそうです。

 アンジリーカ王女は数学とダンスでは誰にも負けません。数学ではフリムでさえ14歳の彼女に叶わないのです。アンジリーカは美しいだけの愚かな王女ではないのです。

 しかし、その他の文学(古文書学、語学を含みます)や科学、建築学、社会学では、フリムの博識さには教師達も驚くほどです。馬術でも、ルージェン王子を凌ぐほどです。彼は、授業時間以外にも独学で図書館の本を読みこなしているのですから。おまけにフリムときたら、絵画に出てくる天使のような茶色の巻き毛に、美しい緑色の瞳をしているのです。端正な彫刻のような顔立ちで、美少女のアンジリーカでさえ、フリムを見る時の表情は特別です。フリムが話しだすと、彼女の顔に尊敬の表情が現れるのです。

 アンジリーカのダンスの練習に殆ど毎晩付き合うのは僕なのに。いや、アンジリーカ王女、アンシア王女、サミュン姫と、三人もの美女の傍に居られるだけで、僕は幸せ者です。

 それに僕だって授業の時間に教師から誉められることがあるのです。文学の授業で詩を作った時、僕の詩を教師は最も誉めてくれました。幼い頃から、三絃を奏でながら歌を創っているのだから当たり前だと思います。

 

 詩の時間といえば、面白いエピソードがありました。

 フリムときたら、自作の詩を作る時間に、

      

      あなたの心はその髪のように純粋な黄金

      

      でも私が貴方を想う時 その肌のような闇に覆われる

       

      貴方が微笑みを浮かべる唇から その魂が伝わって

                  こないから

 

      私はただ貴方を見つめる

 

      いつ貴方が心を開いてくれるのか

 

      私の心の闇が晴れる日はくるのかと 問いながら

 

 なんて詩を作ったのですよ。サミュン姫へのラブレターであることは明らかでしょう。

二枚目は何をやっても様になるからいいよな。

 サミュン姫は彫像のように固まっていましたけど。内気な彼女は恥ずかしかったのでしょう。うーん、ルージェン王子とサミュンとフリムは三角関係なのかな?

 三角関係といえば、アンジリーカがこの詩の授業の後、三日間ご機嫌斜めで、彼女のダンスの伴奏をさせられる僕は苦労しました。

社会学も僕は好きです。

 僕は実際に国内なら殆ど各地を廻っているので、教師に頼まれて具体的にどんな地形をしていたか、山岳地帯の住民はどんな生活をしていたか皆の前で話すように言われたほどです。でも、僕が最も好きな科目は体育です。ダンスや乗馬を皆と共にするのは楽しいです。僕専用の馬も戴いたのですよ。

 母さんが心配している僕の仕事がどんなものか書いておきましょう。


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