第一章 出逢い

死者の国へ向かう二人の出逢い

アザンが加わる旅の音楽師達の乗った馬車はエルマー国の首都モルドーへ到着した。

 都とはいえ、昔ながらの古い城壁で囲まれた街は、商家と学校、城があるだけの小さな街だった。農民達は、城壁の外の村で暮らしていた。
 城壁の中央の王家の城の周りは、大きな広場になっていた。
 その広場へ音楽師達は馬車を止め、商人や農民の仕事が終わる夕暮れ時、太陽が沈む頃に音楽を奏で始めた。商人や子供達は勿論、農民も集まってきた。音楽師達が人々を誘うと、女や子供達は踊り始めた。家の中で夕餉の支度をしていた老人達も、音楽を聞いて、外へ出てきた。
 人々が集い、音楽が夕空に流れていく広場に、馬車が静かに止まった。
 馬車の扉が開いて、姿を現したのは、商人の娘と同じような服を着ていたが、娘二人、それぞれたいそう美しい少女達だった。一人は漆黒の髪に青い瞳、もう一人は金色の髪に空のような瞳をしていた。二人は、農民や商人達に混じってしばらく音楽を聞いていたが、中休みに入ると、一番近くに座って、三弦の糸を調整するアザンの傍へ、黒髪の少女と金色の髪の少女が近づいて来た。どちらも同じ年頃だが、黒い髪の少女の瞳は、深い海のような青で、常に優しい笑顔で白いふっくらとした肌にえくぼが浮かんでいた。

「とても素敵な音楽ね。こうして国中を周っていらっしゃるのかしら」
「はい」
 アザンに話かける黒髪の少女の後ろで、アザンを見つめる金糸のように真直ぐな髪の少女は、少年のようなほっそりとした体つきに、薄い青色の瞳で、妖精かと思うほど美しい。アザンは生まれて19年、こんなに美しい少女は初めて目にしたので、すっかり上がってしまっている。

 アザンは立ち上がった。二人の少女は背が高いアザンの肩くらいまでしかない。アザンはくせのない首筋までの黒い髪に黒い瞳をしていた。

黒い髪が輝く曲線を描き、肉感的な柔らかい肌の少女が言った。
「私はアンシア。こちらは妹のアンジリーカよ」二人とも、甲乙つけがたいくらい愛らしいが、アザンは、妖精のようなアンジリーカの美しさに魅了されてしまっていた。何を言っていいか戸惑うアザンにアンシアが言った。

「お名前はなんと仰るの」

「アザンと言います」
「アザン、貴方はこの音楽隊のリーダーでいらっしゃるのかしら」
「いえ、リーダーはあそこで縦笛を吹いているレクスです」
 リーダーはレクスで、楽団員の中にはアザンより年長で、様々な楽器を操る者もいたが、アザンほど作曲の才能に恵まれた者はいなかった。縦笛の調整をしていたレクスが寄って来て、二人の少女に挨拶をしたが、彼の頬も薄く紅潮していた。
 「レクス、貴方にお願いがあるのよ」妹のアンジリーカが言った。

 「アンシアと話し合ったのだけど、私達の母も、音楽がことの他お好きで、ぜひ、今晩ここでの演奏が終わったら、館へ来てくれないかしら。謝礼ははずむわよ」
 「館というと、どちらへ行けばいいのでしょうか」
 「城へ。来ていただけると嬉しいわ」

驚くアザンとレクスの表情に、アンジリーカはやや得意そうな笑顔をみせた。

 

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