昼に授業が終わると、ルージェンに、食堂へ一緒に来るように言われた。1階の食堂へ行くまでの間、緊張するアザンを、始終アンシアが穏やかに笑って話しかけてくれた。

 食堂へ行くと、王妃のパルミと、先ほど各教科を教えていた教師達がいた。ルージェンとアンシア、アンジリーカ、サミュン、アザンは席に座った。再び隣に座ったアンシアが、細かくテーブルマナーについて優しく指導してくれた。アザンは緊張のため、食事は殆ど喉に通らず、アンシアとアンジリーカの小鳥のさえずりのようなお喋りも殆ど耳に入らなかった。喋るのは教師達や、二人の王女達だった。半刻も過ぎた頃、パルミが珍しく笑みを浮かべて、アザンに言った。

 「アザン、貴方が僧院の仕事を手伝って下さることを、わたくしもとても喜んでいます。何か不便なことがあれば、遠慮なくロリス僧長やルージェンに伝えなさい。何も畏まることはないのです。この食堂に座るということは、貴方を家族の一員として受け入れたということです。さあ、わたくしは、昼食後やらなければならないことがあるので、いつも皆よりも先に退室しますが、ゆっくりとくつろいでくださいましね」

 席を立つパルミの後姿を追うアザンに隣に座って、ずっと無言だったルージェンが言った。

 「母上は、昼食後、ルゴス卿やサホン卿から届く報告書に目を通さなければならない。私もご一緒しなければならないので、アザン、お先に失礼。一時に、裏城門の手前の厩の前で待っています。そなたを僧院へ連れて行くから」

 彼も席を離れた。アザンはアンシアに聞いた。

 「あと、どれくらいで食事は終わるのでしょうか」

 「朝食も夕食も、客人が居る特別な時以外は、半刻で済ませるけど、昼食はいつも、一時間かけるの。食事は社交の場でもあるから。客人を迎えた時、食事を供にしながら、交流を深めるための練習でもあるのよ。勿論、家族同士の交流でもあるわ」

 緊張の余り、腹の具合までおかしくなってきたアザンは、ようやく食堂から開放された。ルージェンに指定された場所へ行くと、再び彼の馬に乗るように言われて、アザンは王子の馬で共に僧院へ向かった。

 街から城壁を出ると、金色の麦畑が風にそよぐ中、馬は農道を走った。

 橋を渡った丘の上がアザリア僧院になっていて、一階の一部が、病人が運ばれる療養院になっていた。先に歩いて行くルージェンの後に付いて階段を上って二階へ上がると、十人程の子供達がルージェンに纏わりついてきた。二階は親を失った子供達が暮らしていた。三階はロリス僧長を始め、僧院で働く職員達の居室になっていた。

 ルージェンはシャリム国から来た薬師のシェインにアザンを紹介した。彼はアザンには理解できない異国の言葉で話すが、尼僧達が通訳してくれるから大丈夫だとルージェンが言った。

 「昨夜のそなたの手際には、シェインも感心しています。しばらく彼について仕事を覚えて下さい。そなたの仕事が終わるのは夕方の5時。明日からの授業で乗馬があるが、慣れるまで歩いて帰ってくれるか。街へ行く尼僧がいれば、出来るだけ荷馬車で送るように伝えておくが、街を見物すろのもよいのではないかな。アザン、そなたは僧院に泊まらずとも良い、公私の区別はつけないときついであろう。城へ帰って、6時からの夕食に参加するように。そなたの居室は城に用意させる」

 そう言ってルージェンは狩へ出て行った。モルドーは陸軍学校がある街で、エルマー国の18歳の成人した男子は全員、南のノルディー港にある海軍学校かのどちらかに入らなくてはならない。ルージェンは陸軍学校の学生達とともに、午後は軍事訓練か、猟師達と狩に参加するならいになっていた。