アザンとマージルが一緒に薬草を鍋に入れて煎じ薬を作っていると、シェインがルージェンの愛馬、ブルトーに荷車を引かせて帰ってきた。荷車から降りると、シャリム語で何か叫んだ。その声に、僧院で働く尼僧達が出てきた。荷車の中から、添え木で足を固定されたトラムを毛布でくるんで、尼僧が4人がかりで運び出した。僧長のロリスがシャリム語で何かシェインに言った。シェインは短く答えてトラムの処置をするために処置室へと去った。アザンが処置を手伝うために扉に手をかけた時、

「アザン」後ろからロリスが声をかけた。「お願いがあります」

 「はい」

アザンがロリスの方を振り向いて応えると、彼女は微笑を浮かべてアザンに近づいてきた。「話があります。こちらへ」

ロリスは厩の方へ歩いて行って、アザンを中へ入れた。

「アザン、悪いけれど、ルージェンを迎えに行ってくれませんか」

 厩の中にはアザンの愛馬のフルーの姿もあった。

 「王子がどうかしたのですか」

 「シェインの話では、父王の墓へ寄ってから帰ると言ったそうです。あの子は気鬱の病が出ると、一人になりたがってよく父王の墓へ行くのです」

「気鬱の病?」

「あなたも学校で習っているでしょうけれど、最近この国に対するミシュナ国の圧力が強くなってきている。王子としてルージェンは自分の無力さが情けないのでしょう」

「僕が行って、王子は不愉快に思われませんか」

「貴方には音楽で人を癒す力があるではありませんか。貴方がここで働いてくれるようになって私もルージェンも他の尼僧達も感謝しているのです。薬では癒えない病人でさえも、貴方には病気の重さを軽くさせる力があります。ルージェンには王子として重い責任と義務があります。ルージェンは王子としての立場から、素直に自分の弱さをさらせない。アザン、貴方ならルージェンを慰めることが出来ると思います。お願いしますよ」

 一国の王子を慰めるなんてどうすればいいのか検討もつかないまま、アザンはフルーに乗ると、ロリスに教えられた村の外れの森の中にある墓地へ向かった。