僕の日課を書けばわかるかな。 朝は6時起床。支度をして、朝食を済ませて7時には教室の席に着いていないといけません。朝食はパルミ王妃とアンシア、アンジリーカに加えて僕だけです。  7時からの授業には、ルージェン王子、サミュン姫、フリムも到着します。フリムは街から歩いてきます。ルージェン王子は雨の日以外は愛馬のをブルトーを走らせて来ます。雨の日は、サミュン姫と同じ馬車に乗って来ます。  12時に授業は終了。それから一時間かけて昼食です。昼食にはサミュンやフリムも参加して、5人の家庭教師達も同席してにぎやかなものです。 昼食は社交の訓練だとアンシアは言ったけれど、ルージェン王子はめったに話をしません。授業の休み時間でも、すぐに席を立っ て自室に籠ってしまいます。彼も王妃と同じく表情の変化が余りない方です。何を考えているのか、周りの者に悟られないようにしているのだとアンシアが教えてくれました。責任の重い者が感情を顔に出すと、周りが動揺するからだと言っていました。  

 僕がよく話すのは、アンシアやアンジリーカです。サミュンは積極的に話をする方では なく、微笑を浮かべて人の話を聞いていることが多いです。話の中心になるのは、博識な フリムや家庭教師達です。 2時になると女達はパルミ王妃ですら、機織の仕事を始めるのです。織物はこの国の一番 の輸出品ですが、王妃自ら仕事をするとは驚きました。  僕は僧院で2時から5時まで仕事をします。3時間働くだけなのに、10万ダラッタ戴 けるのですよ。仕事は薬師のシェインに付いて、処置の手伝いや、薬を作る作業や、病人 や子供達の世話をします。 

 子供達は難しいです。なかなか心を開いてくれない子もいる。でも僕自身の生い立ちと重なる部分があるので、共感できます。何とかやっていけるでしょう。

 都合がつく限りシェインの往診に付いて行きますが、僕がシャ リムの言葉で理解できるのは、挨拶ぐらいです。薬を取りに来れない一人暮らしの老人や 病人がいる家に、薬を届けに行く仕事も任されるようになりました。僕は老人の家を訪ねるのが何より好きです。子供達の愛らしさや美しさは格別ですが、老人はとても優しい瞳をしています。しみやしわが刻まれた老人の顔は、苦しい人生を行き抜いてきた勲章だと思います。薬を届ける時は、必 ずシェインが作成したメモを渡されます。病人に変わりがないか、食事や睡眠は充分か、 肌の色はどうかなど、病状によって観察する項目が書かれてあるので、勉強になります。  

 ルージェン王子やフリムは2時から5時まで、陸軍学校の生徒達と軍事訓練をしたり、 猟師と供に狩に出かけたりします。一度だけ、王子に狩の様子を見学するように言われて、 王子の馬に乗って行ったのですが、王子は後ろに私が乗っているのに、馬を走らせなが ら弓で獲物を射止めたのです。猟師達は別ですが、陸軍の学生の中にでも、王子以上の弓 の名手はいないそうです。僕は馬から振り落とされないように彼にしがみついていました。その際王子が説明してくれたのですが、狩も軍事訓練の演習なのだそうです。僕は旅回 りをしていたから、陸軍学校の兵舎で学ばなければならない義務も果たしていません。

 母さんも覚えているでしょう。南方のノルディー港へ行った時、ルゴス卿が指揮を執っ ている海軍の立派な兵舎を。あの兵舎には、職業軍人として志願した人達や、その家族も 住んでいるそうです。ノルディー港は、他国から攻められた時の、この国の砦であり、貿 易の拠点でもあるわけです。だから、ノルディー港にルゴス卿の城があるのだそうで す。  夕食が済むと王子はすぐにアザリア邸へ行ってしまいます。フリムは夕食後、城の図書 館に籠ってしまいます。閉館になると、彼は家に帰って行きます。最近僕は、もっと勉強 の遅れを取り戻すようにと、家庭教師達から夕食後勉強をみてもらうことになりました。 母さん、一度騙されたと思って城へ遊びに来て下さい。そうしたら、二年ぶりに母さんに 会えることになります。慣れない環境で、母さんが居てくれたらどんなに嬉しいか判って ください。母さんはまだ元気で、一人暮らしが快適なのは分かるけれど、僕は母さんと一 緒に暮らしたい。  どうか良い返事を待っています。                            

 

 

                              アザン

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